ローゼンの雑記帳

ローランにして薔薇の末裔にしてソウルメイト!の雑記!

「Ark」19〜22(短編)【完結】

 

前回は↓ 

rosenstern.hatenablog.com

 

 

Ark19

 

 

「泣かないで」

 

 

最期はせめて笑顔でいてあげようと

泣き顔は嫌いだと言った彼のために

私は光を受けて銀色に輝く

Arkと呼ばれた物》を手に握り

精一杯、笑ったのでした

 

 

彼はおもむろに両手を広げました

 

私は

それを手に握りしめたまま、

ひと月ぶりに彼の胸に飛び込んだのでした

 

 

視界が緋く染まるそんなことはありませんでした

そんな華やかなものではなく

そんな鮮やかなものではなく

そんな美しいものでもなく

 

 

飛び込んだ瞬間、彼は抱きしめてくれました

その腕から次第に力が抜けてゆくのがわかりました

 

彼は私にもたれながら

ただ、ただ

「ごめんね

と繰り返すのでした

 

 

 

Ark20

 

 

僕は久しぶりに彼女を抱き締めた

 

激しい衝撃に必死に耐えて。

 

 

僕は、いつから間違ってしまったのだろう

 

彼女はこんなにも愛してくれていたのに

 

そう、すべては僕のせいだ

だから

 

「ごめんね

 

君をこんな風にしてしまって。

君の手を汚してしまって。

 

本当に、ごめん。

 

 

それでも彼女が僕を愛してくれるというなら

 

“楽園へ帰る”

 

それが最善の方法に思えた。

 

罪を償うなんて綺麗事は言えない。

 

ただ、今度こそは

彼女の側にいてあげようと。

 

“楽園へ帰りましょう”

 

あの言葉はそういう意味だと思うから。

 

 

近くで悲鳴が聞こえる

 

最後まで勝手でごめん

きっともっといい人がいるから

どうか幸せになって

 

僕は

 

 

もう伝えることはできないけれど。

 

 

視界の端に空が映る

 

昼間の空は清々しいほど済んでいて

まるで僕たちを祝福してくれているかのようだった

 

 

Ark21

 

 

「ごめんね

 

その言葉を聞いた途端、私は悟ってしまいました

 

私が間違えてしまったこと

彼は変わらず愛してくれていたこと

 

そう、きっと解決法は他にもあったのです

 

彼が両手を広げた時、

やり直そうと思えばできたのに

私は引き返すことがどうしてもできませんでした

 

 

だから私は

有言実行しようと決めたのです

 

私を受け入れてくれた彼と共に

楽園へ帰ることを。

 

 

私は彼の体をゆっくり横たえて

呆然と立ち尽くしている彼女の方へ向きなおりました

 

手には《Arkと呼ばれたもの》を握ったまま。

 

彼女は、次は自分だと思ったのか

ひどく怯えていました

 

「大丈夫、楽園へ帰るのは私たちだけよ」

 

そう、彼女まで楽園へ来てしまっては意味がないのです

 

力が抜けたのか、彼女は、はた、と地面に座り込みました

 

それを見ると同時に、私は彼の隣にしゃがみました

 

 

「楽園へ帰りましょう」

 

 

ちょうど太陽は一番上へ昇りかけているところでした

Arkと呼ばれたもの》はその光を受け、煌めいていました。

 

 

私はきっと初めから知っていたのです

Arkと呼ばれたもの》が、Ark方舟なんかではないということを

これはどこにでもある、ただの“ナイフ”だということを

 

 

それでも私は

私は彼と共に楽園へ帰るのです

 

 

Arkの反射した銀色の光は

私の背中を押してくれているようでした

 

 

私はArk否、ナイフを――――

 

 

 

Ark22

 

 

あなたは、人が二人、目の前で死ぬという経験をしたことがありますか?

 

そんな、一生に一度もないであろう経験を、私はしたのです。

 

 

私はただ、平凡な毎日を歩んでいただけでした。

ただ、大好きな彼と、街を歩いていただけでした。

 

 

「楽園へ帰りましょう」

 

その言葉の意味するところは結局、私にはわかりませんでした。

 

ただ、それが決して天国などという単純なものでないことは容易に想像できました。

 

 

彼女はきっと私を恨んでいて、私を殺すのだろうと思っていました

 

しかし私は今、生きています。

 

彼女は確かに言ったのです

 

“大丈夫、楽園へ帰るのは私たちだけよ”

 

しかし私には

 

“貴女は連れていってあげない”

 

と言っているように思えました。

 

 

一人取り残された私は、ただ呆然と座り込んでいました。

 

彼らは、誰もが望んでいる永遠を、本当の意味で手にいれたのです。

 

私だって、彼との永遠を望んでいました。

そして目の前にはその問題を解くための解法―ナイフが転がっているのです

 

 

私はそれを拾うことさえできませんでした。

 

自ら命を断つ勇気は、私にはなかったのです。

 

 

私は、彼女の愛が私とは比べ物にならないほど大きいのだと知りました。

 

それと同時に、

彼女が残したもの、つまり私のこれからの生がどれだけ残酷なものかを知りました。

 

それでも私は生きようと決めたのです。

 

彼女と同じくらい

違う誰かを愛する為に。

 

 

願わくは彼らが

楽園で幸せでいることを。

 

 

 

 〜Fin.〜

 

 

原曲はこちら

Ark

Ark

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